カテゴリー

日本の一般住民における複雑性悲嘆の罹患率と決定因

Fujisawa, D., Miyashita, M., Nakajima, S., Ito, M., Kato, M., & Kim, Y. (2010). Prevalence and determinants of complicated grief in general population. Journal of affective disorders, 127(1-3), 352–8.

大切な人やものの喪失に伴う反応を悲嘆と呼ぶ。通常の悲嘆に比べ、複雑性悲嘆ではより強い症状がより長い期間継続する。症状には様々な身体的疾患、抑うつ、アルコール摂取量の上昇、医療機関受診率の上昇、非適応的になること、社会的交流の低下、自殺や疾患による死亡率の上昇などがある。複雑性悲嘆は抑うつとよく似ているが抑うつの治療方法では改善せず、複雑性悲嘆専用の治療が効果的であることがわかっている。

続きを読む

独創性と研究の方法論的限界/『ロールシャッハテストは間違っている』

Wood, J. M., Nezworsski, M. T., Lilienfeld, S. O. & Garb, H. N. (2003) What’s wrong with the Rorschach? Science confronts the controversial inkblot test. John Wiley & Sons.[ウッド, J. M., ネゾースキ, M. T., リリエンフェルド, S. O. & ガーブ, H. N./宮崎謙一(訳)(2006).『ロールシャッハテストは間違っている』(pp.1-41)北大路書房.]

ロールシャッハテスト(以下、ロ・テスト)はスイスの精神医学者ヘルマン・ロールシャッハによって作り出された心理検査法です。インクの染み(インクブロット)によって偶然作り出された図版を見せ、何に見えるのかを尋ねることで被験者のパーソナリティを明らかにしようとするものです。科学的根拠がないとして批判を受けたこともありましたが、ジョン・エクスナーが1974年に包括システムを開発して以来、医療はもちろん学校や司法領域でも幅広く使われるほどになりました。

続きを読む

シティリビングWeb「寺ガール&イケ坊」特集に掲載されました

cityliving

先日、シティリビングで紹介していただいた記事が、現在ウェブにも掲載されております。

こちらの「寺ガール&イケ坊」特集です。お寺に興味のある女性のために、色々な仏教カルチャーやお坊さんを紹介した記事です。

寺ガール上級編に町田宗鳳さんの「ありがとう断食セミナー」が紹介されています。野草から作った酵素ジュースやお茶を飲みながら、写経、坐禅、ヨガをしながら三日間過ごすのだそうです。以前、三日間の断食道場に行ったことがありますが、そこは用意されたアクティビティもなく、ひたすら水を飲みつつ散歩する以外は暇を持て余すばかりだったのを思い出しました。

それはともかく、次に行くことがあれば最長期間の一週間断食に挑戦してみたいところです。

意識と無意識の統合としての人格の発展/ドラ・M・カルフ『カルフ箱庭療法』

ドラ・M・カルフ(1972)カルフ箱庭療法[新版] p.1-40 誠信書房.

創始者カルフによる箱庭療法の解説書です。箱庭療法は子どものための精神的な治療方法として考案されました。箱庭とは、砂を入れた木製の四角い箱のことです。箱の底は水を象徴する水色に塗られており、傍らには人間、動物、植物、建造物といった様々なミニチュアが用意されています。子どもは砂とミニチュアを自由に使って、なんらかの風景を作っていくことになります。

続きを読む

科学的研究観の変化/岩壁茂『はじめて学ぶ臨床心理学の質的研究―方法とプロセス』

岩壁茂(2010)はじめて学ぶ臨床心理学の質的研究―方法とプロセス pp.1-31 岩崎学術出版社.

これまで心理学では論理実証主義と呼ばれる自然科学の定義に基づく研究が行われてきました。論理実証主義では、客観性と普遍性を重視します。あらゆる状況に適用可能な理論を導き出すため、研究では研究者の主観を排除し実験に作用する要因をコントロールして、出来る限り直接的な因果関係を明らかにしようとします。このように収集されたデータを統計的に処理し、変数間の因果関係を見出していこうとする研究が量的研究です。

しかし、近年、こうした研究の前提となっていた科学観に疑問が投げかけられました。果たして、観測者からまったく影響を受けない完全に客観的な現象はあるのか。もしあるのだとしても、そのようなものを人間が観測し、記述することが可能なのか。科学的研究が暗黙の前提としてきた客観的で普遍的な真実そのものに対して疑問が呈され、科学的な研究の条件そのものが見直されるようになりました。客観性と普遍性が科学の唯一絶対的な条件ではなくなったのです。

こうした中で登場したのが質的研究です。質的研究では人々の体験が作られる過程とその意味を、その体験の内側から捉えようとします。そのため体験を数値に圧縮するのではなく、語りなどを通して得られる体験の分厚い記述をデータとして分析を行っていきます。また、量的研究の仮説検証的なアプローチと異なり、データから仮説を生成していく帰納法的なアプローチを行います。

このようにして臨床心理学では実証主義に限らない様々な立場による研究が行われるようになりました。どこの立場に立つのかで、サンプルサイズやインタビュアーとの関係性といった研究計画上重要な点で下すべき判断も変わってきます。

実証主義に加えて、五つの立場が検討されます。ポスト実証主義では、研究者の主観を統制し完全ではなくても可能なかぎり客観的な事実に近づこうとします。構築主義では、現実は個々人がそれぞれに構築するものと考え、個人の生きている世界とその意味が作り上げられるプロセスを記述します。社会構成主義では、客観的な現実はけして言語化できるものではないと考え、むしろそのようなコミュニケーションに対して働く様々な影響力そのものを捉えようとします。フェミニストの立場では、女性に限らず社会・文化的な差別偏見の仕組みを理解し、変えることを目指します。また、ポスト構造主義では、近代社会の支配的な言説が構築される過程に注目し異議を唱えます。