アンドリュー・ニコル『タイム』を観た!

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あらすじ:遺伝子操作によって、人類は老化を克服し永遠に25歳で生きられるようになった。しかし、25歳を迎えた人々に与えられるのは1年間の寿命だけで、腕に埋め込まれた時計に表示される残り時間がゼロになればその場で死んでしまう。時間が通貨替わりに使われるようになった結果、ごく一部が永遠に近い寿命を持つ一方で、ほとんどの人々は働いて得たわずかな時間をやりくりしながら、その数字がゼロにならないよう日々怯えながら暮らしていた。母(オリヴィア・ワイルド)とふたりで貧しい生活を送るサム・ウォレス(ジャスティン・ティンバーレイク)は、ある日偶然バーで出会った男から100年ものの時間を譲り渡される。その時間を使ってサムはスラム街を出て富裕層の暮らすエリアへ入り込むが、タイムキーパーのレイモンド・レオン(キリアン・マーフィ)に追われ、大富豪の娘シルヴィア・ワイス(アマンダ・セイフライド)と逃げることとなってしまう。

本作は『ガタカ』(監督・脚本)、『ターミナル』、『トゥルーマン・ショー』(脚本/ストーリー)などで知られるアンドリュー・ニコル監督の最新作。『ソーシャル・ネットワーク』で「ザを落とせ」のショーン・パーカーを演じたジャスティン・ティンバーレイクと、いつものブロンドのロングヘアを赤っぽく染めボブにしたアマンダ・セイフライドが主演。脚本も監督自身が手がけていて、時間が通貨としてやりとりされるようになった世界を舞台にしたSFアクションだ。

予定していた『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』にタイミングが合わず、あまり良い評判を聞かなかったのだが、設定的が面白そうだったこちらを観てみた。

あらすじがながくなってしまったように設定は奇抜だが、話はシンプルな追跡ものでわかりやすく、人だけでなく時間に追われて走り続ける主演のふたりが美しくとても絵になっていた。しかし、いささかプロットに穴が多く物語の勢いが削がれがちなうえに、物語の展開が中途半端で最後まで消化不良感が否めなかった。

主人公のサムはシルヴィアと逃げるうちに、今まで奪われてきたものを取り戻そうと、銀行強盗で奪った時間を貧しい人々に配って回るようになる。たいして武装もしない素人にあっさり根こそぎ奪われるような無用心な銀行なのは気になるけど置いておくが、シルヴィアの父親にも言われたようにいくら時間を貧しい人に配ったとしても問題が解決されるわけではない。だから、いつかは行き詰まって根本的な問題に立ち向かわざるを得なくなるのだろうと思いながら観ていた。ところが、驚いたことにただ規模が大きくなっただけで、最後までこのねずみ小僧のような行動が繰り返されるだけなのだ。

問題の根本がどこにあると考えるかは思想や立場で変わってくるところで、それをあの時間を牛耳る富豪の存在とすることも、時間の価値を管理・運用する金融システム(のようなもの)とすることもできるだろう。もちろんシステムを撹乱するねずみ小僧のようなあり方を貫くことだって悪くはないのだが、それならそれでもっと現実味を持って描くべきだろう。金持ちは常にボディガードを雇っているような世界なのに、パーティーに行くような格好で派手な車を乗り付けて、ろくに警備もされていない巨大銀行をハンドガンで強盗しにいくとかいくらなんでも雑すぎる。

結局問題なのは、いくらお金や時間があったところで満ち足りることなどなく、少なければその少なさに喘ぎ、多ければ多すぎることに喘いでしまう人間の本質だとわたしは思う。

別に彼らが山にでも行って修行でもするべきだとは思わない。しかし、10年もの時間を譲ってもらったのに一晩で1年分の酒を飲んで死んでしまったサムの友達の全身に染み込んだ渇望や、有り余るほどの時間があるのにそれを失わないよう何もできなくなってしまったシルヴィアたちの鈍い恐怖といった、この映画でもっとも強く観るものを揺さぶったはずのものを、たんなるアクションの背景にしてしまうのはあまりにも惜しかった。

持っていようと、持っていなかろうと、私たちを縛り突き動かすこの衝動をどうするのか。とても難しい問題だとは思うが、ここに向かっていって欲しかった。どんな巨大銀行に強盗に入ったところで、人の心の中にはもっと遥かに巨大な問題があるじゃないか、と思うのだ。

松下 弓月

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松下弓月(まつしたゆづき)。たい焼きと映画とコーヒーと。最近は餃子が盛り上がっています。

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