キャッセル病院における入院精神療法

引き続き、児童青年心理療法ハンドブックから入院治療に関する論文を読みました。

Flynn, D. (2009). The chalenges of in-patient work in a therapeutic community. Eds. Monica, L. and Horne, A. The Handbook of Child and Adolescent Psychotherapy: Psychoanalytic Approaches, Second Edition. East Sussex; Routledge, pp.101-113. (平井正三・脇谷順子・鵜飼奈津子(監訳)(2013) 治療共同体における入院治療の試み 児童青年心理療法ハンドブック 創元社)

キャッセル病院は第一次世界大戦後に砲撃ショック(戦闘体験によるPTSDのこと)に似た症状に苦しむ市民のために設立された。治療は個人や集団は自由と責任を与えられれば、その責任を果たし人としての目的を持ち以前に苦しんだ問題に対しても立ち向かうことができるようになるという考えのもと行われた。治療方法として入院治療が発達すると、家族関係や心理的な問題に対しても用いられるようになった。

キャッセル病院では精神分析的心理療法や看護に加え、身体的ケア、危害を加えられる危険や現実生活の重圧からの保護、自傷行為を防ぐための拘束、問題に対する監督や評価など様々な治療を行っている。精神分析的心理療法が行われるのは患者が条件を満たしている場合だけであり、自我の強さ、治療に対するモチベーション、決められた場所と時間に来れること、治療に関するルールや禁止事項を守る必要がある。

患者とスタッフは治療共同体の一員としてともに治療に取り組んでいる。看護師が患者の混乱した行動に対処しそれぞれが責任や課題を引き受けるのを手伝う一方で、患者たちは自分自身の治療に責任を持つ。昼食はスタッフが用意するが、それ以外の食事は患者自身が計画から予算管理、メニュー決め、調理を行っている。スタッフと患者は週三回は会議を行い運営上の問題や情緒的な問題について話し合う。また、夜間は院内に当直者と看護師1名しかいないため、患者たちは自分たちで情緒的問題に協力して取り組む。

看護師と心理療法士や治療において本質的に異なった役割を担い、治療に異なる貢献をする。そのためそれぞれが相手の仕事を理解することが欠かせない。看護師は患者の日々の行動や関係を通して患者の能力を理解し改善の計画や方法を提示する。心理療法士は転移を通して患者を理解する。患者は看護師と心理療法士だけでなく、家族や病院に対しても転移を起こす。患者が混乱したり攻撃的になる場合、スタッフは仕事を遂行することが困難になることがある。そのようなときに看護師と心理療法士が協力して働くことは、お互いにとって支持的であり疲労を癒す効果がある。さらに患者の破壊的、断片的、抑うつ的な側面に取り組むことは治療を促進させることにつながる。

また、キャッセル病院では15年かけて被虐待児の家族再生ブログラムを発展させてきた。3歳以下の子どもが関与する深刻な虐待の場合には、母親が子どもに関する不安を話し合うことができるように児童心理療法士と時には看護師を含む母親ー乳児面接が週に一回行われる。虐待に関係がある場合、父も時々参加する。母親は虐待やネグレクトをしてしまったことで子どもとの情緒的なつながりを失ってしまったため、自分のどんな関わり方が関係を損なっているか気づき向きあう必要がある。治療が進むにつれ、母親は自分がしたことの責任を感じ、さらには責めを引き受け差恥心や痛みを伴う気づきを受け入れるようになる。母親が虐待に至った自分の問題を克服しなければ、子どもと再び関係を結ぶことはできない。

治療においては家族の関係性が試される。そのため治療が子どもに与える影響をアセスメントすることが重要である。個人心理療法を中心に、治療共同体全体の取り組みに様々な側面を見て総合的に捉える必要がある。特に大切なのは、子どもが何に耐え、何を切り抜けられるかである。子どもは耐えることで虐待を生き延びたが、深い情緒的な傷を負ってしまった。そのためどんな時にどんなことが耐えるべきで、耐えるべきではないか。また、耐えることが子ども努力を促進するか、それとも妨げるかを見極めることが必要である。

虐待の恐怖に継続的に晒されることで、子どもには混乱、不安、極度の恐怖が生じる。そのため虐待を受けた子どもの治療は闘争的になりやすいが、この内在する恐怖に取り組んではじめて関係の再構築に進むことができる。大切なのは親が虐待に対する自分の責任を認めることである。

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モニカ・ラニャード,アン・ホーン,平井 正三,脇谷 順子,鵜飼 奈津子,NPO法人子どもの心理療法支援会創元社
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松下 弓月

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松下弓月(まつしたゆづき)。たい焼きと映画とコーヒーと。最近は餃子が盛り上がっています。

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