友人の自死を経験した青年の外傷性悲嘆

友人の自死を経験した青年の外傷性悲嘆に関する研究論文を読みました。外傷性悲嘆とは、トラウマ的な出来事によって生じる正常範囲を超えた悲嘆のことです。

Melhem, N. M, Nancy D., Shear, M. K., Day, R., Reynolds Ⅲ, C. F., and Brent, D.(2004) Traumatic Grief Among Adolescents Exposed to a Peer’s Suicide. American Journal of Psychiatry, 161, 1411-1416.

近年、死別を経験した成人が外傷性悲嘆(Traumatic Grief)によって心身の健康に長期に渡り影響を受けるという理解が広まってきた。外傷性悲嘆は抑うつや不安と異なるもので、機能不全の憎悪、身体的健康の悪化、希死念慮の上昇を生じさせる。しかし、これまでの悲嘆研究の多くは配偶者を亡くした成人が対象で、子どもの実証的なデータは非常に少なかった。友人や兄妹を自死で失った青少年の悲嘆に対する縦断的研究では、抑うつ、不安、PTSDの罹患率の上昇が見られた。また、自死から6年後に自死者の友人に行った調査では、希死念慮を伴う外傷性悲嘆を発症するケースが見つかっている。

本研究では、ピッツバーグに在住の自死者26人の友だちおよび知り合い146人( 11〜23歳で平均18.3歳 )に対して調査を行った。自死から6ヶ月、12〜18ヶ月、36ヶ月、6年後にかけてThe Texas Revised Inventory of Grief、The Inventory of Complicated Grief、KSADS-E/P(抑うつ尺度)PTSD Reaction Indexに回答してもらい、統計的な分析を行った。

外傷性悲嘆の症状と同定されたのは、泣くこと、切望感、感覚の麻痺、死者を思い出すことに没頭すること、機能不全、喪失への不適応だった。また、抑うつとPTSCは外傷性悲嘆と併発することが少なくないが、外傷性悲嘆は抑うつともPTSDとも違う別の症状であることが示唆された。

青少年と大人では外傷性悲嘆の経過が異なる可能性がある。本研究の調査では外傷性悲嘆の症状は12−18ヶ月で大きく和らぎ、その後は大きく変化しなかった。しかしPrigersonらが配偶者を亡くした老人を対象に行った調査では、外傷性悲嘆の症状は6ヶ月でもっとも強まり25ヶ月以上経っても変わらなかった。若者と老人では外傷性悲嘆の経過が違うことも考えられる。

実証的な証拠に基づいてPTSDと外傷性悲嘆が別個であることを明らかにしたのは本研究がはじめてである。これまでPTSDと外傷性悲嘆はどちらもストレス反応性障害であり侵入思考、感情的麻痺、他者からの孤立、苛立ち、怒りといった症状が共通しているが、理論的には異なるものとされてきた。今回明らかになった両者の相違点は、以下の点であった。

  • 外傷性悲嘆は分離悲嘆(切望感、死者を探してしまったり、ほろ苦い思い出に頻繁に浸ること)を含む。外傷性悲嘆を抱えた人はしばしば悲しむことが死者とつながりだから、そうしないことは裏切りであると信じこむ。PTSDでこれは生じない。
  • 過覚醒症状の違い。外傷性悲嘆では死者の手がかりを周囲に探し求めることだが、PTSDでは外傷体験を再体験する恐怖である。
  • 優勢な感情の違い。外傷体験では悲しみだが、PTSDでは恐怖である。
  • 睡眠障害の有無。PTSDでは症状のひとつに含まれるが、外傷性悲嘆では報告されていない。
松下 弓月

About The Author

松下弓月(まつしたゆづき)。たい焼きと映画とコーヒーと。最近は餃子が盛り上がっています。

No Comments

Leave A Reply

You must be logged in to post a comment.