イギリスでの多職種協働チームにおける児童心理療法士の役割

イギリスでは児童精神医学の他職種協働チームで心理職がどのような役割を担っているかを紹介する論文を読みました。日本語タイトルでは省かれていますが、精神分析の伝統を主に扱っています。

Crockatt, G. (2009). The child psychotherapist in the multi-disciplinary team. Eds. Monica, L. and Horne, A. The Handbook of Child and Adolescent Psychotherapy: Psychoanalytic Approaches, Second Edition. East Sussex; Routledge, pp.101-113. (平井正三・脇谷順子・鵜飼奈津子(監訳)(2013) 多職種協働チームにおける児童心理療法士 児童青年心理療法ハンドブック 創元社)

児童心理療法における理論的発達は、子どもの発達に対する考え方や困難が生じたときに必要な介入、また子どもを身体・心理・社会的な側面を含む全体像として捉えることの必要性を明らかにした。これを受け、専門家による多職種協働チームが問題をアセスメントし対処することや、問題に包括的に対処するためには他機関システムが必要であると考えられるようになった。

1920年代に精神科ソーシャルワーカーと心理学的医療の専門家が協働して児童相談活動を行うようになって以降、イギリスの児童青年精神保健サービス(CAMHS)における他職種協働チームの概念は時代を追うごとに発展し、第二次大戦後には精神分析家と教育心理学者がロンドンを中心に協働するようになった。1995年にはNHS Health Agency Serviceが発行した『共に立ち向かおう(Together We Stand)』ではこうしたサービスの地域的な不均衡が指摘され、以後は全国的に包括的かつ均等なサービスの提供が目指されてきた。

また、同報告では援助対象者の状況に応じて、以下のような階層化を行うことの必要性が指摘されている。他職種協働チームが扱うのは第三・四層である。

・第一層:子どもや青少年のウェルビーイングに影響するが、それが主目的ではないサービス。学校、一般医、ソーシャルワーカーなど。
・第二層:専門家がひとりで扱える比較的容易な場合や短期間で変化がもたらされる場合。第三層につなぐ機会でもある。
・第三層:専門家チームが必要になる変化をもたらすには他サービスと協力しつつ長期に渡る対応が必要な場合。
・第四層:問題が深刻で入院が必要になる少数の子どもや、司法が介入する深刻で危険な行動を示す子どもの場合。

児童心理療法士は他職種協働チームにおいて、主に子どもに対するアセスメントと心理療法を行う役割を担う。子どもの内的世界に焦点を当て、その子どもの視点から問題にアプローチする。子どもが苦痛や不安、困難を言葉ではなく行動や身体症状として表現している場合には特にこれが重要である。また、子どもについて考えるには、家族などの養育環境も含めることが必要であり、児童心理療法士は必然的に他の専門家と協働することとなる。その際には親や専門家ネットワークに生じる無意識的なプロセスに気づき、考慮に入れてながらチームに貢献することが大切である。

他の専門家と連携することには多くの利点がある。子どもに対する心理的な視点を共有することで、以前は説明の付かなかった子どもの行動を理解したり、より全体的でまとまった子どもの像を持ち、サービス体制を整えやすくなる。

また、心理療法士としては子どもと面接室の中にただともにいることができるかどうかも重要である。面接室の中にふたりでいることは外から入り込んでくる力に負けない強い力がある。

児童心理療法士の仕事は、チームのメンバーとともに最低限の治療的介入ことである。これには必要に応じて、短期的な介入から長期にわたる集中的介入まで様々なものが含まれる。具体的には、専門的なアセスメント、合同面接、グループワーク、短期のカウンセリングなどである。また、児童施設やこどもセンターでの仕事や他機関に対するコンサルテーションも重要な仕事である。

深刻な児童虐待や子どもの死の調査では、しばしば協働ネットワークのどこかに穴があったことが報告される。合同委員会の設立が有効な対応策だと言われることがあるが、機関ごとの視点の違いが人間の複雑さを扱うことを可能にしていると言うこともできる。専門家間の相違は競争やライバル視につながるが、子どもの全体性に接近する有効な方法を生んでもいる。

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松下 弓月

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松下弓月(まつしたゆづき)。たい焼きと映画とコーヒーと。最近は餃子が盛り上がっています。

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