遊戯療法の前意識的交流におけるセラピストの役割

弘中正美. (2012). 前概念的レベルにおけるコミュニケーションー遊戯療法・箱庭療法などにおける治療メカニズムについてー. 明治大学心理社会学研究. 8, 35-46.

遊戯療法や箱庭療法において非言語的洞察がないにも関わらず治癒的な働きが生じるのは、それらにおいてはイメージ表現が意識と無意識の中間にある前意識を活性化させるからである。前意識の領域において生じる言葉にしにくいが本質的な体験を前概念的体験と呼ぶ。この前意識的体験には問題の解決を方向性を暗黙裡に示されており、触れているだけでも治癒的な働きが生じるのである(弘中, 1995)。

こうしたプロセスにおいてセラピストは主体的な役割を担っている。クライアントが非言語的な表現を通して前概念的体験に触れているとき、セラピストも同時にそれにクライアントの体験を感じている。象徴的な表現は情動を喚起しやすくイメージを共有しやすい性質を持っており、そのためにクライアントもセラピストも共通のイメージを持つことができる。

このようにして前概念的体験が両者のあいだで共有されることで、クライアントの表現したしたイメージはセラピストによる意識的/無意識的、言語的/非言語的な応答によって伝え返される。両者の前概念的なコミュニケーションにおいて、クライアントは自分の体験を受け止めてもらえたという感覚を抱き、それを自らのものとして受け取ることができるようになる。クライアントは非言語的な表現として現れた自らの前概念的な体験を、セラピストの応答を通して再体験するのである。

こうした前概念的な体験は、ウィニコットの概念で言えば中間領域における意識体験に近く、スターンの母子間のも相互作用も同様の前意識的な領域で生じていることと考えられる。

セラピストは心理療法の場において、前概念的なコミュニケーションを活性化させるためクライアントの表現を受け止め応答するという主体的な役割が期待される。

松下 弓月

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松下弓月(まつしたゆづき)。たい焼きと映画とコーヒーと。最近は餃子が盛り上がっています。

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