非言語的表現による治療的変容の機序

弘中正美. (1995). 表現することと心理的治癒. 千葉大学教育学部研究紀要. I, 教育科学編, 43, 55–65. Retrieved from http://ci.nii.ac.jp/naid/110004715487/

フロイトによれば、心理療法における治癒は無意識的なものを意識化することによってもたらされる。フロイトの局所論では心を階層的に意識、前意識、無意識の三つに分ける。無意識は心の深層にあり直接触れることのできない。そのため意識と無意識が交流する前意識を通して、そこに立ち現れてきた無意識を明確な形で言語化(=洞察)するのである。

しかし、遊戯療法などではこうした洞察を得ないままでも治癒が生じることがある。治癒に意識化が必要なのであれば、なぜそうしたものがない遊戯療法でも心理的な効果があるのか。

ジェンドリンの体験過程の理論では、感情や身体的感覚といったひとりの人間の全体的で直接的な体験そのものを重視する。これは直接のレファラントと呼ばれ、フロイトでいう前意識的な活動と同じものである。

遊戯療法における非言語的な表現は、クライアントの無意識における心の働きからなんらかのイメージとして表出してくる。クライアントはそれをはっきりと体験しながらも、言葉として明確化することはできない。つまり、ここに現れたのは前意識的な心の働きそのものである。受容的で非日常的な環境において、非言語的な表現を行うことで、こうした前意識的な活動が活性化されるのだ。

こうした明確に言葉で表現することは難しいが、何か本質的なものが含まれる体験を前意識的洞察と名付ける。これはジェンドリンの言う直接のレファレントと同一のものである。ここには言語化されていなくても、クライアントの内的な状態に関する重要な情報が含まれる。そのため、遊戯療法で見られるように言語化せずとも、直接のレファレントをはっきりと感じるだけでも治療的変化は生じるのである。

心理療法が効果的であるためには、こうした前意識的な体験の質が重要である。ジェンドリンによれば、前概念的な体験を発展させるためにはそれに適切な言葉を与える象徴化が欠かせない。重要なのは象徴化には言語的なものだけではなく、非言語的なものも含まれるということである。遊戯療法においては、箱庭療法におけるフィギュアのように非言語的、イメージ的な表現によって象徴化がなされるのである。

よって、遊戯療法においてはこうしたクライアントの表現にともなう前意識的な体験が洞察につながるように援助することが重要である。

松下 弓月

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松下弓月(まつしたゆづき)。たい焼きと映画とコーヒーと。最近は餃子が盛り上がっています。

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