日本の一般住民における複雑性悲嘆の罹患率と決定因

Fujisawa, D., Miyashita, M., Nakajima, S., Ito, M., Kato, M., & Kim, Y. (2010). Prevalence and determinants of complicated grief in general population. Journal of affective disorders, 127(1-3), 352–8.

大切な人やものの喪失に伴う反応を悲嘆と呼ぶ。通常の悲嘆に比べ、複雑性悲嘆ではより強い症状がより長い期間継続する。症状には様々な身体的疾患、抑うつ、アルコール摂取量の上昇、医療機関受診率の上昇、非適応的になること、社会的交流の低下、自殺や疾患による死亡率の上昇などがある。複雑性悲嘆は抑うつとよく似ているが抑うつの治療方法では改善せず、複雑性悲嘆専用の治療が効果的であることがわかっている。

これまで行われた疫学的調査では複雑性悲嘆の罹患率は9~20%だったが、社会・文化・臨床的背景によって一定ではない。これまでアジアでの調査は少なく、自然災害の被災者やなんらかの精神疾患を抱えるものを対象としたものしかなかった。

本研究では、日本の精神疾患を持たない住民で複雑性悲嘆に関する状況を調べるため、層化無作為二段抽出法を用いた郵送質問紙調査を行った。対象は過去10年間に近親者との死別を経験した40~79歳の住民で、The Brief Grief Questionnaire(Shear et al.,2006)などに回答してもらった。

統計的分析の結果、日本での死別から10年以内の複雑性悲嘆の罹患率は2.4%だった。予測変数として相関が有意だったのは死者との続柄、病気の種類、亡くなった場所、死の予期されなさ、死の直前にともに過ごした時間の長さであった。

なんらかの精神疾患をもつ患者を対象にした調査では、死別から長期間経過したあとでも複雑性悲嘆が継続することがわかっていた(死別から10.4~16.4年の罹病率が18.6~31.1%)。調査前は時間的経過に伴って複雑性悲嘆の罹患率は低下すると考えていたが、精神疾患を持たない場合であっても罹患率に大きな低下は見られなかった。

各要因については以下のとおり。

・死者との続柄:親や義理の親よりも、配偶者の死のほうが複雑性悲嘆のリスクが高かった。東洋では配偶者よりも親との結びつきが強いと言われるが、逆の結果だった。核家族化や西洋化の影響が考えられる。

・死因となった病気の種類:ガンよりも、卒中や心臓病のほうが複雑性悲嘆のリスクが高かった。これは死の予期できなさによると考えられる。

・亡くなった場所:自宅で亡くなった人よりも、病院で亡くなった人の家族の複雑性悲嘆の罹患率は有意に低かった。これは看取りの負担が複雑性悲嘆の可能性を高めるからだと考えれる。また、驚くべきことに自宅よりホスピスなどの緩和ケア施設で亡くなった場合に複雑性悲嘆になりやすかった。原因としては、施設のケアに対する不満や、自分で世話できなかったことの後悔、治療を諦めてしまったのではという罪悪感が考えられる。

・死の直前にともに過ごした時間の長さ:死の直前に亡くなった人とともに過ごす時間を持たなかった人よりも、毎日一緒に過ごした人のほうが複雑性悲嘆になりやすかった。これは死別者との関係の深かったこと、または看護負担の大きさによるものと考えられる。

松下 弓月

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松下弓月(まつしたゆづき)。たい焼きと映画とコーヒーと。最近は餃子が盛り上がっています。

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