独創性と研究の方法論的限界/『ロールシャッハテストは間違っている』

Wood, J. M., Nezworsski, M. T., Lilienfeld, S. O. & Garb, H. N. (2003) What’s wrong with the Rorschach? Science confronts the controversial inkblot test. John Wiley & Sons.[ウッド, J. M., ネゾースキ, M. T., リリエンフェルド, S. O. & ガーブ, H. N./宮崎謙一(訳)(2006).『ロールシャッハテストは間違っている』(pp.1-41)北大路書房.]

ロールシャッハテスト(以下、ロ・テスト)はスイスの精神医学者ヘルマン・ロールシャッハによって作り出された心理検査法です。インクの染み(インクブロット)によって偶然作り出された図版を見せ、何に見えるのかを尋ねることで被験者のパーソナリティを明らかにしようとするものです。科学的根拠がないとして批判を受けたこともありましたが、ジョン・エクスナーが1974年に包括システムを開発して以来、医療はもちろん学校や司法領域でも幅広く使われるほどになりました。

雲や壁の染みのように偶然できた模様に深く神秘的な意味を見出す行為はパレードリアと呼ばれ、古くから行われてきました。たとえばボッティチェルリは絵の具を染みこませたスポンジを壁に投げつけて作った模様から、作品作りの霊感を得たとされます。ほかにも水に落とした卵の模様で未来を占う卵占いや木の樹皮などの偶然できた模様になんらかの宗教的なイメージを見出し奇跡と見なすことが行われてきました。

1910年代にロールシャッハが研究を始める頃には、すでにインクブロットを使った研究は多く行われていました。しかし、インクブロットに見えた内容ではなく、知覚の形式そのものに注目したところにロールシャッハの独自性があります。彼は特に運動と色彩の感覚に注目しました。たとえば何らかの動きのあるイメージを多く見出す人は、知的で創造的だが内向的な傾向があるとされます。これは身体を動かせない状態で寝ると運動する夢をみると考えたジョン・モーリー・ヴォルドの実験に基づく考えです。また、色に反応することが多い人は社会適応力はあるが感情的で衝動的な外拡的な傾向があるとされます。

知覚とパーソナリティの関係を見出したロールシャッハの視点は優れたものでしたが、その研究方法には時代的な限界がありました。たとえばサンプリングの問題です。統合失調症については200人近い十分な数のデータがありましたが、うつ病についてはわずか14人しかデータがありませんでした。他にも被験者の個人特性を彼自身の主観で判断していたことや、確証バイアスへの配慮がなかったために、彼のインクブロットに対する考えは必ずしも正確なものとはならなかったのです。運動反応の数が知能と関わる傾向があるという結果が出た一方で、色彩反応は情動性と関係が薄いか矛盾した結果が得られています。ロールシャッハ自身がもっとも重視した体験型についても、ほとんど内向性・外向性と関係がないということがわかっています。

ロールシャッハテストはまちがっている―科学からの異議 ロールシャッハテストはまちがっている―科学からの異議
ジェームズ・M. ウッド,スコット・O. リリエンフェルド,M.テレサ ネゾースキ,ハワード・N. ガーブ,James M. Wood,Scott O. Lilienfeld,M.Teresa Nezworski,Howard N. Garb,宮崎 謙一

北大路書房
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松下 弓月

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松下弓月(まつしたゆづき)。たい焼きと映画とコーヒーと。最近は餃子が盛り上がっています。

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