カウンセリングではいったい何が起きているのか?/レスリー・グリーンバーグほか『感情に働きかける面接技法』

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Greenberg, L.S., Rice, L.N., & Elliott, R. 1993 Facilitating Emotional Change The moment-by-Moment Process. The Guilford Press. (グリーンバーグ, L. S., ライス, L.N., & エリオット, R. 2006 感情に働きかける面接技法 心理療法の統合的アプローチ』

レスリー・グリーンバーグらによるセラピーのプロセス研究の本を読んでいます。93年と少し古く、彼らもいまはこの本で取り上げられている体験ー過程療法から、感情焦点化療法(Emotion-Focused Therapy)に移っているそうですが、唯一の邦訳本であり、その理論的な柱となっている書籍がこちらです。

いささか翻訳の文章が読みにいのですが、どのようにしてセラピーによって人は変わるのか、何がそこで起こっているのかというのはとても興味のあることなので、メモを取りつつ体験ー過程療法の理論をまとめた第1~3章を読みました。ここでは体験ー過程療法の基本的な考え方をまとめた、第1章「体験ー過程療法の理論的背景」についてご紹介してみます。

体験ー過程療法はカール・ロジャーズのパーソンセンタードアプローチやフリッツ・パールズのゲシュタルトセラピーを基礎に持つ心理療法のアプローチです。三者に共通するのは、クライアントをカウンセリングの中心に据えること、誰もが成長しより良い方向に進もうとする潜在的な傾向を持っていると信じていること、そしてカウンセラーとクライアントの関係がセラピーで中心的な役割を果たすと考えていることです。

体験ー過程療法とロジャーズとパールズの違いは、心の問題がなぜ生じるのかに関する理論にあります。ロジャーズとパールズは、心の問題は、自分はこういう存在であるという自己概念と、実際にその人が感じているありのままの体験(=有機体的自己)が、ズレることによって生じると考えました。自己概念と有機体的自己が一対一対応の関係にあり、一致していれば人として機能するが、不一致の状態にあると機能しなくなるということです。

一方、グリーンバーグらの体験ー過程療法では、心の問題が発生する過程を、一対一対応の構造的なモデルではなく、情報が処理される動的なプロセスとして捉えます。

わたしたちは生まれたときから経験してきた様々な出来事の積み重ねによって作り上げられた認識と反応のパターン(=感情スキーム)を作り上げています。わたしたちはこの感情スキームによって、ひとつとして同じもののない体験を、ある一定のパターンに沿って認識し様々な感情を生じさせなんらかの反応を返すことで、無数の状況に効率的に対応しています。

例えていうならば、ハンターハンターでネテロ会長が「王」の繰り出す無数の攻撃に、それまでの経験で培ってきた「型」を繰り出すことで、意識的な対応では間に合わない場面でもダメージを負わずに済んでいたようなものです。

しかし、感情スキームはすべてが適当的とは限りません。否定的な経験の繰り返しによって生じた感情スキームは、認識を歪めたり不適切な感情を生じさせたりするため、状況にうまく対応できなくなってしまいます。

こちらは、イルミによって針を埋められたキルアの状態に似ています。蟻との戦いに赴く前、シュートの能力を見たときのキルアの反応です。よくわからない能力は怖いと過剰に警戒して、ビビって身体が動かなくなってしまっていました。力の差はあったとはいえ、本来の能力を発揮すれば、いくらでも対処できたはずなのに、それができない。それはイルミの針が、格上の敵と対面したときに、キルアの意思に反して、恐怖を感じ敵に近づかないようにさせていたからです。

このように不適応的な感情スキームが働くと、状況をありのままの形で認識し、適切な行動を選択するということができなくなってしまうのです。

では、再び適応的な行動ができるようになるには、どうしたら良いのでしょうか。グリーンバーグらは体験に対する間違った意味づけをやめ、この不適応的な感情スキームを再構成しなくてはならないとします。

「このアプローチのより大きな目標は、さまざまな方法を使いながらクライエントが自分の問題に関連する感情スキームに接触し、体験をより適切に象徴化することにより、機能不全のスキームに関連する重要な体験を再処理できるようになることである。このような性質の感情処理は、それまでの古いスキーム構造を再構築し、新たなスキームの生成を導く。」(p.1)

体験ー過程療法の具体的なカウンセリング手法は第2章以降で詳細に説明されていますが、ロジャーズの理論に比べると、より具体的な介入の方針があるように感じます(ゲシュタルトセラピーはよく知らないので比べられませんが)。

機能不全に陥った感情スキームを再構築するためには、いくつかの条件が必要ですが、特にクライエントの体験のもっとも生き生きとした部分に注意を焦点化することと、それによって新たな体験を得ること、そしてこの意味づけの過程でそれまで暗黙裏のうちに作動していた感情スキームの存在に気づくことが強調されています。

硬直した不適応的な感情スキームでは処理できない様々な材料を得ることで、柔軟に変化し新しい状況に適応する感情スキームの力が発揮させることができます。「注意の焦点を変えることによって、注意が焦点化された対象と、注意を向ける個人の自己組織がかならず変わる」のです(p.58)。

第2章以降では、カウンセラーの介入の基本的な原則や、クライアントの状況に合わせてどのような介入をしたらよいのかという診断方法、そして、フォーカシング、空の椅子といった手法を使った具体的な関わりの手法について解説されています。

感情とうまく付き合うにはどうしたら良いのかは、多くの人にとって切実な問題だと思います。感情に深いレベルで触れ、その適応的な働きを促進するにはどうしたら良いのか。こうした問題を詳細に分析し、具体的な指針を提示した本書はとても有益だと思いました。あとはもう少し、読みやすい日本語だったらなおよかったのですが。なかなか内容を理解するのも大変です(続く、かもしれない)。

感情に働きかける面接技法―心理療法の統合的アプローチ 感情に働きかける面接技法―心理療法の統合的アプローチ
レスリー・S. グリーンバーグ,ロバート エリオット,ローラ・N. ライス,Leslie S. Greenberg,Robert Elliott,Laura N. Rice,岩壁 茂

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松下 弓月

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松下弓月(まつしたゆづき)。たい焼きと映画とコーヒーと。最近は餃子が盛り上がっています。

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